大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

大阪高等裁判所 昭和29年(う)1099号 判決

控訴人 検察官 石岡敏夫

被告人 尹徳植

弁護人 滝川堯

被告人 広岡耕一 外一名

検察官 小保方佐市

主文

原判決中被告人広岡耕一に対する部分を破棄する。

右被告人を懲役一年及び罰金五〇〇〇円に処する。

右罰金を納めることができないときは金二五〇円を一日に換算した期間右被告人を労役場に留置する。

被告人尹徳植の控訴はこれを棄却する。

理由

検事石岡敏夫の控訴趣意について。

被告人広岡耕一に対する本件公訴事実は、刑法第二三五条該当の窃盗罪及び選択刑として罰金が定められている同法第二〇四条該当の傷害罪であるから、いずれも簡易裁判所が第一審としての裁判管轄権を有することは裁判所法第三三条第一項第二号の規定によつて明らかである。また、簡易裁判所は、その管轄事件についても同条第二項但書の場合を除いては禁錮以上の刑を科することができないが、それは同裁判所に対する科刑権の制限たるに止まり裁判管轄権の制限ということができないから、原審が第一審裁判所として右但書に掲げられていない傷害とこれに掲げられている窃盗とが併合罪の関係にあるとし刑法第二〇四条(懲役刑選択)第二三五条第四七条等を適用して右被告人を懲役一年六月に処したのは、所論のように不法に管轄を認めたものとして刑事訴訟法第三七八条第一号に当るということはできないけれども、簡易裁判所として科すべからざる刑を言渡した点において、判決に影響することの明らかな法令適用の誤があるといわねばならない。

よつて、刑事訴訟法第三九七条第三八〇条第四〇〇条に則り原判決中右被告人に関する部分を破棄し、改めて原審認定の事実に刑法第二〇四条罰金等臨時措置法第二条第三条(罰金刑選択)、第二三五条(共謀の分につきなお同法第六〇条)第五六条第五七条第四五条前段第四七条第一〇条第一四条、第四八条第一項、第一八条及び刑事訴訟法第一八一条第一項但書を適用して主文第一乃至第三項の裁判をする。

被告人尹徳植の弁護人滝川堯の控訴趣意について。

原判決挙示の証拠中被告人尹徳植の原審公判における供述(記録第二一丁)及び同人の検察事務官に対する供述調書を総合すれば同被告人が原判示の各贓物買受に当りその贓物であることを察知していたことを認めるに足り所論の証拠その他一件記録を精査してもこの点に関する原審の認定に誤があるとは認められないしその量刑においても不当のかどがあるとも認められないから刑事訴訟法第三九六条に則り主文末項のように裁判をする。

(裁判長判事 荻野益三郎 判事 梶田幸治 判事 井関照夫)

被告人広岡耕一に対する検察官の控訴趣意

原裁判所は

第一、被告人広岡耕一は昭和二十九年一月十六日大阪市此花区伝法町北五丁目四二番地高田富二郎方前路上に於て五十里嘉進とヒロポン代金返済のことに関し口論の末格闘し高田方に有り合せたる剌身庖丁を取出し同人の胸腹部を突剌し因て同人の左側胸部、胸腹部に治療約四週間を要する開放性剌創を与え

第二、被告人広岡耕一は同区酉島町住友化学工業株式会社大阪製作所酉島工場に於て

(一)同年二月十三日同会社所有の鉛管約十一貫(価格約八、八〇〇円)

(二)同月十四日同鉛管約六貫(価格約四、八〇〇円)

を各窃取し

第三、被告人広岡耕一は三村史郎と共謀の上前記酉島工場に於て

(一)同月十六日前記会社所有の鉛管約八貫(価格約六、四〇〇円)鉛板約六貫(価格約四、八〇〇円)

(二)同月十七日同鉛板約八貫(価格約六、四〇〇円)鉛管約七貫(価格約五、六〇〇円)

(三)同月十八日同鉛管約十五貫(価格約一二、〇〇〇円)

(四)同月二十日同鉛管約十貫(価格約八、〇〇〇円)鉛板約八貫(価格約六、四〇〇円)

(五)同月二十三日同鉛管約十貫(価格約八、〇〇〇円)鉛塊約五貫(価格約四、〇〇〇円)

(六)同月二十五日同鉛管約二十貫(価格約一六、〇〇〇円)鉄約二貫五百匁(価格約一五〇円)

(七)同月二十六日同鉛管約十五貫(価格約一一、三〇〇円)

を各窃取し

たものであるとの事実及び累犯となるべき前科(昭和二十三年一月二十二日大津地方裁判所言渡住居侵入強盗懲役三年以上五年以下)を認定し刑法第二百四条(懲役刑選択)第二百三十五条(共犯につき第六十条)第五十七条第四十七条第十条第十四条を適用して被告人を懲役一年六月に処する旨の判決を言渡したのであるが右の判決は不法に管轄を認めたもので破棄を免れない。

本件公訴事実は前示認定の通りであるが刑事事件に関する簡易裁判所の裁判権の限界は裁判所法第三十三条に明定されており同条第二項の制限の下に三年以下の懲役を科することができる外には原則として禁錮以上の刑を科することができずこの制限を超える刑を科するのを相当と認めるときは訴訟法の定めるところにより事件を地方裁判所に移さなければならないのに拘らず原審が本件について刑法第二百四条の罪につき懲役刑を選択ししかも管轄地方裁判所に事件を移送することなく併合罪の規定にもとづき刑法第二百三十五条の罪に対して科すべき懲役刑に法定の加重をした刑期範囲内で被告人に一年六月の懲役を言渡したのは簡易裁判所の裁判権の範囲を逸脱し不法に管轄を認めたものであるから刑事訴訟法第三百七十八条第一号第三百九十七条により原判決を破棄の上更に相当の判決をせられたい。

(その他の控訴趣意は省略する。)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例